
2008年の春頃、突如としてニコニコ動画に巻き起こった吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」ブーム。「テレビもねぇ ラジオもねぇ」と言えば皆さんご存知、吉幾三の出世作となったコミックソングが、様々な楽曲と掛け合わされ(ネット上ではマッシュアップと呼ばれます)、一大センセーションが形作られてから早2年が立とうかというところですが、良い作品は未だ色褪せない魅力があり、再生数もコツコツと伸び続けています。さらには、「コメントによって動画がより面白くなる」というニコニコ動画の特徴がゆえに、発表当初・ブームの渦中よりもさらに面白くなっている動画すらあるんです。そこで、僕の独断と偏見での吉幾三マッシュアップ動画ベスト7をここでまとめたいと思います。
第7位
第7位は、B'zのギタリスト・松本孝弘が作曲したミュージックステーションのオープニングテーマ「#1090 Thousand Dreams」とのマッシュアップです。
ニコニコ動画での吉幾三ブームに乗じた楽曲の中では比較的早めの発表ながら、選曲が見事。中盤のギターソロで脅威のシンクロを達成していて、爆笑しつつも唸らされてしまうこと請け合いです。
ちなみに、ニコニコ動画内の吉幾三マッシュアップ楽曲には「スンクロ率441.93%」というタグがよく付けられます。スンクロとは当然シンクロの訛りであり、シンクロ率という表現はエヴァンゲリオンの引用と思われます。言葉ひとつとっても、少しでも楽しくしようという行為に満ちているのがインターネット上における特徴的な行動ですね。
第6位
第6位は、アニメ「COWBOY BEBOP」のオープニングテーマ「Tank!」とのマッシュアップ。ノリの良いジャズ構成のインスト曲、冒頭の「ガッ!」の掛け声から一気に乗せられちゃいます。さらには、吉幾三の声の音程を替えて楽曲に合わせて歌わせるという芸当まで実現していて、元曲の良さと相まって一気に最後まで走り抜けてくれます。
そうそう、冒頭を含め何度も使われる「ガッ!」という吉幾三の叫びには、「GOD!」という字幕が入れられていて、これがまたバカバカしいやら何やら。動画のクオリティに応じて、そこからさらに価値を生み出すコメントが集まってくるのが、ニコニコ動画の真骨頂です。
第5位
第5位は、なんと3曲のマッシュアップ。アニメ「らき☆すた」オープニングテーマ「もってけ!セーラー服」と、インド人歌手ダレル・メヘンディの「Tunak Tunak Tun」、それに吉幾三がプラスされます。
・・・なんでインドの歌? と思われるかもしれませんが、この曲は2007年からニコニコ動画では有名な曲で、陽気なインド人のおじさんがエエ声で踊りまくりながら歌う曲の楽しさと、ニコニコ動画では定番ネタの外国語の空耳でブームになったことがあるんです。それに、アニメのブームと楽曲のインパクトによって「もってけ!セーラー服」がマッシュアップされ、さらにプラスして吉幾三が乗っけられたわけです。
3曲の音が入り交じっているので、当然混沌としてはいるんですが・・・なんだろうか、このエネルギーは! 「Tunak Tunak Tun」の民族めいた力強い声と、吉幾三の方言丸出しの声が混ざり合って得た力強さを、「もってけ!セーラー服」の狂気めいたグルーブが加速して、これぞ渾然一体。
一方、動画のほうが「Tunak Tunak Tun」のプロモーションビデオを採用しているんですが、そこではインド人歌手のダレル・メヘンディが馬車にのって町を駆け抜けるというもの。凄まじいほどの楽曲に応えるコメントは、この動画部分を再解釈して、青森から東京までの道中であるかのように東北各地の地名で応酬します。激しく踊るインド人を載せた馬車の疾走に合わせて、「青森県庁前出発」「馬淵川」「目時」「ただいま小牛田駅通過」なんて具合に東北の地方都市を通過中であるかのような演出のテロップが入れられて、もうたまりません。
第4位
第4位はなんと、ソウルの神様・ジェームス・ブラウンの登場です。「Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good」で、ジェームス・ブラウンと吉幾三が対バンです。このあたりから、動画のクオリティもハンパないです。甲乙付けがたいし、作品としてお金取れるレベルに入りつつあります。
楽曲だけでなく動画もスゴイこの作品、見ていただければスゴさは分かってもらえると思うんですが、一言で魅力を伝えるなら・・・実際に投稿されたコメントから、以下の一言を引用しましょう。
吉幾三がジェームス・ブラウンを食ってるwww
振り返ってみると、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」は、何にも無い田舎を嘆いて東京を夢見る若者の歌。ソウルからブルースへの系譜と通じるところがあって、そんな生活の辛さを陽気さで跳ね返す音楽として黒人音楽はそのルーツをアイデンティティとしています。さらに言えば、ラップもそんな黒人音楽の流れに乗っていますから、吉幾三はそんな音楽の歴史と青森を見事に結びつけていると言えるのかも(?)しれません。かつて北島三郎は「演歌は日本のソウルだ」と言いましたが、コミックソング・歌謡曲として生まれた「俺ら東京さ行ぐだ」もその系譜として異色ながらも確かなアイデンティティを持っているように思われます。
第3位
ジェームス・ブラウンの次は・・・マイケル・ジャクソン! ジャクソン5「I want you back」とのコラボでも、吉幾三は相変わらずのハッスルっぷり。とびっきりの楽曲と最高の動画に応えるかのように、「寂村5(ジャクソン5)」「牛村(モータウン)」というハジケっぷりのタグが付けられています。
心から楽しいジャクソン5の原曲に、吉幾三の「ハッ!」「ガッ!」「あーソーレッ!」「あーヨイショッ!」の愛の手が凶悪なまでに相性が良くて、聞く度にテンションが上がるんですね。まるで毎日の生活の苦しさを忘れさせてくれるような・・・まさに、第4位でも挙げた黒人音楽的な開放感が楽しめます。だからこそ、こんなコメントが寄せられることになるんです。
悩みがひとつずつ消えていく・・・
俺なんでこんな動画で泣いてんだwww
便秘が治りました。
足袋にニッカポッカ・ねじり鉢巻に消防団の半纏に茶色いサングラス、そんな吉幾三が足を放り出して飛び跳ね、田舎らしい人懐こい笑顔でシャウトする。その姿は何故かすべてを受け入れるような穏やかな優しさに満ちていて、黒人音楽的な開放感と相まってヒーリング効果すら持ち始めている・・・なんていうのは言い過ぎですが、少なからずユーザに響いている様子を見るとまんざらでもないと思ったりもするのです。かつてニコニコ動画では「YATTA!」のブームがありましたが、この曲も同じような全肯定による開放感・癒しがコアにあって、長引く不況の閉塞感に満ちた時代が裏付けになったブームの一種かもしれないと分析するのは、さすがに考えすぎかもしれませんね。
第2位
いよいよ第2位。民族音楽・ソウルと続いてきましたが、次はまさかのTMネットワーク。アニメ・シティーハンターでも使われた大ヒット曲「Get Wild」とのコラボレーションです。まさしく「まさか!」の取り合わせながら、スンクロ率はハンパじゃありません。TMネットワークのライブ動画を編集して、絶対にあり得ないライブを作り出してしまいました。
そもそも、「オラの村には電気が無い!」という歌なのに、電子音楽の申し子・小室哲哉率いるTMネットワークとコラボってだけで面白い。ボーカル宇都宮隆のダンスも「2010年最新の種まきスタイル」と揶揄され、ギター木根尚登のギターソロも「俺ら東京さ行ぐだ」のイントロのギターに差し替えられてしまっています。
そんな動画の中で特に刮目すべきは、派手なTMネットワークのライブパフォーマンスに挟み込まれる、白黒の吉幾三。テレビの音楽番組で片手をマイクに、片手をズボンのポケットに入れて歌う吉幾三をゆっくりズームしていくカメラ。80年代から90年代初頭・ポップス全盛期の雰囲気が乗り移った「Get Wild」をBGMにして歌う吉幾三が、妙にシブくてカッコイイんですね。
第5位〜第3位の吉幾三は肯定感・開放感といった要素を醸し出していましたが、この楽曲に至ってはダンディズムのような雰囲気すら滲ませる吉幾三を、是非ご堪能ください。
第1位
そして1位は・・・かなり究極と言ってもよいかもしれません、4曲のマッシュアップです。
- Daft Punk「Technologic」:フランスのテクノ/エレクトロユニット。楽曲は2005年。
- Beastie Boys「Ch-Check it out」:アメリカのハウス/ヒップホップユニット。楽曲は2004年。
- Capsule「STARRYSKY」:日本のテクノ/レレクトロユニット。楽曲は2006年。メンバーの中田ヤスタカはPerfumeのプロデューサとしても有名。
- 吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」:青森出身の演歌歌手。楽曲は1984年。
・・・なんともスゴイ取り合わせですよね。ま、とにかく、聞いてみてください。
この奇跡のようなマッシュアップには、一朝一夕にできたものではありません。まず、吉幾三以外の3曲のマッシュアップがまず(吉幾三とは関係なく)作られました。このマッシュアップは海外でも評価されるほどのクオリティの高さで、一時ネットでも話題になりました。そんな最中の、吉幾三ブーム。さらに1曲マッシュアップされ、4曲マッシュアップが完成したというわけです。
結果として吉幾三対フランス・アメリカ・日本のアーティストという形になるこの楽曲ですが、優れたアレンジ・動画・コメントによって、見事に吉幾三的要素が花開いています。楽曲冒頭の「Buy it Use it Break it Fix it...」というフレーズは、Daft Punkの「Technologic」からの引用ですが、吉幾三の「テレビもねぇ ラジオもねぇ」と見事に呼応しています。Beastie Boys の3人のMCによる都会的な白人の若者らしいラップと、青森の田舎者の方言によるラップの対比も素晴らしいし、Capsuleの女性ボーカルの透き通った歌声と吉幾三の合いの手の不思議な調和といったら!
そして何よりスゴイのが、Beastie Boys のラップとCapsuleの女性ボーカル部分の英語の歌詞に乗せられた和訳の歌詞です。元の歌詞とはまったく違う適当な歌詞であり、4曲のマッシュアップを成し遂げた作者とは別人が創作した文章なんですが、そのフェイクの歌詞を一部ここに引用してみます。
まずは、Beastie Boysのラップ部分。生意気な素振りの白人の若者が、こんなことを言うんです。
田舎がイヤだからって 若者が都会に出て行くって?
職は中国人にとられて 商店街はシャッター通りだ
農業じゃ食っていけねぇから 若者はみんな出稼ぎに出るんだ
いつか暮らしが良くなって 帰郷できると信じて、わかるか?
1つだけよく考えてみろよ 今後の農業のあり方について
都市と農村の格差は何だ!? なぜ若者は村を去る?
この歌詞が、ニコニコ動画を見ている若い世代によって書かれたものであることに注目してください。若者が生まれ育ったふるさとを去らなければならない不条理や、都市と農村の格差に対する苛立ちが、はっきりと表明されているんですね。
さらにスゴイのが、Capsuleの女性ボーカルによって歌われる部分。少々長いですが、ちょっと読んでみてください。
貴方と歌ったじょんがら節 貴方と眺めた八甲田山
二人でかじったサンふじの甘さも 私はずっと忘れない
一人で歌うじょんがら節 一人で稲を刈る事も
何故か私は耐えられるって あの時だけは思えてた
星空の下で見送った「はくつる」 だんだんと小さくなる貴方を見たベゴが
ポツリと小さく鳴いた 今まで聴いたこともない声で
「もっとお洒落になりたい」「もっとビックになりたい」
こんな村はイヤだと言って 飛び出した都会に何も無くても
夜の星空が 私たちを繋いでくれてるよ
だから泣かないで 都会のネオンに埋もれても
貴方と夢見た新幹線 貴方が乗った寝台列車
状況が二人を引き裂いても 私はずっと忘れない
今年も雪が綺麗だよ 今年も私は元気だよ
いつか戻ってくれるよねって あの時だけは信じてた
田舎を去った若者を、田舎に残って慕い続ける女性の想いが歌われています。青森らしさ・吉幾三らしさを出すためのふざけた歌詞も一部ありますが、内容はとてもシリアスで切ないものです。今は廃止になっている寝台急行「はくつる」で彼氏を見送った女性が、それでもなお「今年も雪が綺麗だよ」と空に語りかける様を想像すると、なんと泣けて来さえすらするんですね。
Daft Punk・Beastie Boys・Capsuleとのマッシュアップによって、吉幾三のコミックソング「俺ら東京さ行ぐだ」は、社会問題を訴える歌になり、はたまた状況で引き裂かれた男女の想いを立体的に描く歌にすらなっているのです。これはもはや、田舎という現象を構造的に描いたエピック(叙事詩)と言ってしまって良いものだと思います。
そんな3組が紡ぐ楽曲の中で、吉幾三は叫び続けます。そしてそんな叫びには、こんな一節が、名もなきニコニコ動画ユーザによって付されているのです。
オラの村には元気がねぇ!!
バカな事をしているなぁと最初は笑っていたユーザも、楽曲の後半には感動し涙を流す人もいるのも頷ける話です。その証拠に、この楽曲はもう少しで100万件の再生を達成します。この再生数は、ニコニコ動画にある数百万にものぼる動画の中で10000分の1の動画にしか与えられない圧倒的な支持の証拠なのです。
2008年のその一瞬、吉幾三は時間を飛び越えて、鍬をマイクに持ち変えた手で、確かに若者の心を掴んだのです。
あとがき
爆笑もあれば、感動もある一連の吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」マッシュアップブームはここのところ一段落していましたが、去年の年末に「吉幾三生誕記念2009 大吟醸 '09」と銘打たれた総勢38人による吉幾三マッシュアップメドレーが公開され、大ヒットしたりもして、まだ完全に終わった訳ではないようです。この新作動画では「俺は田舎のプレスリー!」「Dream(新日本ハウスCMソング)」など新しい曲のマッシュアップが試みられ、より一層力の入った映像と共に構築されることにより、正直「プロが作ったんじゃないか?」と疑いたくなるほどの出来を達成しています。
1984年の楽曲が、インターネットでコミュニケーションをするのが当たり前の世代に再評価されました。さらには、様々なマッシュアップやコメントによって価値が増殖され、楽しまれました。約25年という、親と子ほどの世代の差が一瞬で埋まったどころか、より大きな価値へと転換したんですね。
それは別に、都市と田舎の格差の問題のような社会的な態度から起こったブームではありません。ただ面白かったから、エネルギーがあったから、流行ったまでのことです。しかしながら、吉幾三が曲にしたためた中で心によぎったかもしれない田舎に対する様々な思いは、時間も空間も意味を成さないインターネットの世界で、たくさんの若者の心に響いたことは間違いないでしょう。
これからもこのブームが続いていくのか? とか、都市と田舎の問題はどうなるのか? とか、そんな事は一切予想がつきません。しかし、これだけは確実に言えることでしょう。若者たちが時代を超えて良いものを楽しみ、意味を見出し、育てていくセンスは、絶対に確かなものだと。
- Newer: 書評「クラウド時代と<クール革命>」
- Older: 「占いは信じてないんだ。」




